Dysferlinopathy(ディスファーリノパシー)とは、Dysferlin遺伝子変異(ディスファーリン)が原因で発症する筋疾患を総称した病名です。Dysferlin遺伝子変異により発症する筋疾患には、以下のタイプが報告されています。
1.三好型筋ジストロフィー(Miyoshi muscular dystrophy / MMD)
*海外ではMiyoshi myopathy(MM)と呼ばれることもあります。
2.肢帯型筋ジストロフィーR2(Limb girdle muscular dystrophy R2 / LGMD 2B)
*2018年に肢帯型筋ジストロフィー 2Bから肢帯型筋ジストロフィー R2に変わりました。
3.前脛骨発症を伴う遠位型ミオパチー(Distal Myopathy with Anterior Tibial Onset / DMAT)
参考)
1.Dysferlinopathy
2.Dysferlinopathies
3.Dysferlinopathies
「英語用訳」
Dysferlin(ディスファーリン) Dysferlinopathy(ディスファーリノパシー)
その他
Dysferlin(ジスフェルリン) Dysferlinopathy(ジスフェルリノパチー)
Dysferlin遺伝子変異は、Dysferlin蛋白質の欠損や機能低下よって筋細胞膜の修復に障害を生じるとされています。原因遺伝子は、第2番染色体「2p13」に2対あり常染色体劣性遺伝式をとります。もともと骨格筋は、収縮と弛緩をくりかえし常に細胞膜の微細な破綻を生じる状態にあります。この膜の破綻が修復されない状態が長く続くと細胞外からカルシュウムイオンが流入し筋線維の壊死をきたします。これを繰り返すことで、筋萎縮と筋力低下を引き起こします。
筋病理検査で、Dysferlin遺伝子変異の筋細胞には特殊な構造物が無いと報告されていますので筋ジストロフィー(Dystrophy)に分類されます。筋ジストロフィー(Dystrophy)とは、筋萎縮と筋力低下をきたす進行性の病気で病理学的に筋細胞の壊死・再生を主病変とする遺伝性筋疾患です。ミオパチー(Myopathy)とは、広義の意味では筋ジストロフィー(Dystrophy)も含めた筋疾患すべてを呼んでいますが、狭義のミオパチー(Myopathy)では筋ジストロフィー(Dystrophy)以外の筋疾患を総称して呼んでいます。
「筋疾患の定義」
筋ジストロフィー :筋細胞の壊死・再生を主病変とするもの(Dystrophy)
ミオパチー(狭義):筋ジストロフィー以外の筋疾患(Myopathy)
「筋細胞の構造」
筋ジストロフィー :筋細胞に特殊な構造物が無い物(Dystrophy)
*三好型筋ジストロフィー・肢帯型筋ジストロフィーR2(旧 LGMD2B)など
ミオパチー(狭義):筋細胞に特殊な構造物がある物(Myopathy)
*縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー・眼咽頭遠位型ミオパチーなど
三好型筋ジストロフィーに関する論文は、1967年に故三好和夫徳島大学名誉教授がはじめて日本の学会で発表した後、1986年に「AUTOSOMAL RECESSIVE DISTAL MUSCULAR DYSTROPHY AS A NEW TYPE OF PROGRESSIVE
MUSCULAR DYSTROPHY: SEVENTEEN CASES IN EIGHT FAMILIES INCLUDING AN AUTOPSIED
CASE(常染色体劣性遠位型筋ジストロフィー)」として報告されました。当時病名には三好型とは付けてはおらず、後に海外の研究者が「Miyoshi」と名付けたそうです。三好型は、筋ジストロフィーの一種と報告された筋疾患(筋原性疾患)で常染色体劣性遺伝です。1998年に、原因遺伝子が第2番染色体「2p13」にある事が報告されDysferlin(ディスファーリン)と命名されました。このDysferlinの欠損によって筋細胞膜の修復に障害を生じて筋細胞が壊れやすくなり筋萎縮と筋力低下を起こす筋ジストロフィーです。一般的には、三好型筋ジストロフィーと呼ばれていますが、海外では、三好型ミオパチーとも呼ばれています。
肢帯型筋ジストロフィー2B(現 LGMD R2)に関する論文は、1996年に「Genetic and physical mapping at the limb-girdle muscular dystrophy locus
(LGMD2B) on chromosome 2p」として報告されました。肢帯型筋ジストロフィー2B(現 LGMD R2)は、筋ジストロフィーの一種と報告された筋疾患(筋原性疾患)で常染色体劣性遺伝です。原因遺伝子は、三好型筋ジストロフィーと同じDysferlinです。このDysferlinの欠損によって筋細胞膜の修復に障害を生じて筋細胞が壊れやすくなり筋萎縮と筋力低下を起こします。
また、かねてから三好型筋ジストロフィーと肢帯型筋ジストロフィー2B(現 LGMD R2)は病状が進むにつれ同じ病状をたどることが報告されています。一般的な臨床病状は、10~30歳頃に発病して初期症状は爪先立ちやジャンプが出来ない事や歩行時には平坦な道でつまづき転倒したり階段の昇降なども大変になるような症状が現れます。発症後10年位で歩行困難とされていますが個人差はあり、心臓や呼吸器は侵されにくいので生命的予後はよいとされています。
現在のところ臨床病状(初期症状)の違いから、遠位筋優位は三好型筋ジストロフィーとし近位筋優位は肢帯型筋ジストロフィーR2(旧 LGMD2B)と異なる病名が使用されています。しかし、2021年1月に「Miyoshi myopathy and limb girdle muscular dystrophy R2 are the same disease」と言う論文が報告されました。これは「Dysferlinopathyー国際臨床アウトカム研究(COS)」における三好型筋ジストロフィーと肢帯型筋ジストロフィー2B型(現
LGMD R2)の患者168人の臨床診断との間の人口統計学的・MRI・機能的および遺伝的差異を比較して、それらが異なる臨床表現型であるかについての内容です。この研究は、JainFoundationが資金提供をして8か国15施設からDysferlin遺伝子異常の患者さんが参加しています。
「論文のハイライト」
1.Dysferlinopathy診断の初期にその後に起こってくる筋力低下のパターンを予測することはできない。
2.Dysferlinopathy患者集団の筋力低下のパターンは、異なる2つのサブグループとはならず、ひとつのオーバーラップする「連続体(その中のどの点を取ってもその近くの領域と明確に区別できないような広がり)」となる。
3.MM(三好型ミオパチー)はヨーロッパやアメリカよりも日本で一般的な診断名であるが、患者は遠位筋でより筋力低下を示すのではない。(参加者全体 LGMDR2:114 MM:54 /
日本 LGMDR2:4 MM:9)
4.臨床試験のために患者をMMとLGMDR2のサブグループに分けるべきではない。
【筋疾患(筋原性疾患)】
筋疾患(筋原性疾患)とは、筋肉そのものに原因があり筋肉が萎縮してゆく病気のことをいいます。筋ジストロフィー(Dystrophy)とは、筋萎縮と筋力低下をきたす進行性の病気で病理学的に筋細胞の壊死・再生を主病変とする遺伝性筋疾患です。ミオパチー(Myopathy)とは、広義の意味では筋ジストロフィーも含めた筋疾患(筋原性疾患)すべてを呼んでいますが、狭義のミオパチー(Myopathy)では筋ジストロフィー以外の筋疾患を総称して呼んでいます。
【前脛骨筋】
前脛骨筋とは脛の前にある筋肉で、主に足の関節を上下させる役目を持っています。
【CK / CPK】
CK / CPK(クレアチンキナーゼ)は、心臓や筋肉の細胞の中にある酵素で正常値約35~210位です。筋疾患などの病気の方で10倍以上の数値が出ますが、健康な方が運動後の検査で示す数値も上昇しますが、2・3日以上経っても10倍以上の数値は出ません。この数値を見る事で分かる事は、筋肉を破壊させる病気の性質(筋肉の障害)が分かります。これは、病気や人により数値の違があります。
【常染色体劣性遺伝】
両方の親由来の遺伝子が共に異常の時のみ発症し、2本のうち1本に異常があっても正常な方が優位に働いて発病しせず(保因者となる)両方とも異常な場合は発病する。つまり、両親が保因者であり、その両親から異常な遺伝子を半分づつ受け継いだ場合を言います。
【常染色体優性遺伝】
片方の親由来の遺伝子だけが異常で発症し、それぞれ2本あるが、そのどちらかに異常があると発病する。この場合、異常遺伝子が子供に伝わる確率は50%となります。また、両親のいずれかは患者と言うことになりますが、病状が軽くて気づかないこともあります。